第1章

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「どうして自首なんか、ずっと黙っていれば」 「弁護士の傍にいるアンドロイドが殺人だなんて許される訳ないじゃないですか」  ユウが顔を上げると、電子手錠の鎖が鈍い音を立てた。 「ヒロが弁護士になったと聞いた時決めたんです。もう十分だと、私の役目はヒロを守る事。これ以上は迷惑に他ありません」  膝の上からユウの手が離れた。 「私は空っぽです。何も注がれていないグラスと一緒です。私は本物じゃない。中身のない偽物です。そこにあるように見せかける事しか出来ません。何故なら私は量産型のアンドロイドですから」  舞台が閉幕する直前のように明かりがどんどんと落ち暗くなってゆく。 「知ってますか? 私、殆どが共通のパーツで出来ているんです。私を『私』だというパーツだけ抜き取ると、あのグラスの中で収まってしまうんですよ」  ユウは一度、外の様子を伺うと小さく溢した。 「換えはいくらでもきくんです」  ユウは一瞬寂しそうな顔をした後、誤魔化すように笑って返した。  そんな筈はない。あのグラスだってユウがプレゼントしてくれた物なんだから。ユウの気持ちがいっぱい詰まってるじゃないか、中身のない偽物なんて嘘に決まっている。  そうやって僕が後を引きづらないように、気を遣っているだけだ。  塔の影が空を隠してしまう程になり、次第に無骨なコンクリートの壁面が見え始めた。建物のゲートらしき門を潜ると、ドライバーが一度ちらりと僕らを見た。 「ユウはそうやって自分の事ごまかす時いつも寂しそうに笑うんだ」  黒い髪がふわりと舞って、ユウは顔を手で覆った。  車が速度を落とす。フロントガラスの先にコンクリート製の入り口が口を開けている。車が完全に止まればきっとそこへ連れていかれてしまうのだろう。 「どうして、私そんな事……」  ユウが何かを吐き出すようにもらす。 「わかるさ、だって家族じゃないか」  車のエンジンが止まった。扉が開いて、黒いスーツを着た施設の人がこちらを見ている。ユウが連れ出されるまでのその間、僕は涙を拭って電子手錠に繋がれたユウの手を離れるまで強く握り続けた。
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