~第一話~ ひとひらの、雪も消えゆく朝の靄

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 群集心理が厄介なのは、主馬も父である田嶋からは話として聞いている。  先の、天明の打ち壊しなどで。 「けどよ、この青瓢箪が手前えだって名乗り出たんだろ? だったら、それで決まりじゃねえか」  伊丹の言う通り、自白している以上。  この自首した子供は、切腹か斬首だろう。  恐らく、主馬か杉下。  若しくは、北町の廻り方与力の仕事となる。 「神戸さンよ。若し切腹か斬首なら、俺ッちを介錯に指名しちくれィ。どうも、苦ェヤマになりそうな気がする」  主馬が自ら首討ちを買って出るなど、非常に珍しい。 「まあ、明日は雪?」  幾ら普段から仕事をしていないとは言え、それは失礼だろう。  雪に。 「お、鶴か。寿限無の絵は、見付かッたか?」 「勿論です。それで、これは?」  どっちの事か判らず、主馬は暫し硬直。 「……、どッちだ?」 「松姉さんの方です」  抱き着かれてる方だと、鶴は言う。 「良い匂いがするなンて言ッてる傍から、これだ。どうせ、も抱き着くンだろ? 良いよ、抱き着いて」  諦めたのか、主馬は鶴にも許可を出した。  悪戯を思い付いた様な笑顔で、鶴も抱き着く。
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