~第一話~ ひとひらの、雪も消えゆく朝の靄

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 最後の、虚舟の一件から早数年。  生死の境を彷徨った千太を、ぬらりひょんが見舞う。 「駄目だな。河童の万能薬を使っても、まるっきり右腕が動かねえ。前えみてえに、殺しは無理だな」  千太の右腕は、あれ以来動かないらしい。 「左様か。一緒に、女の尻でも触りに行こうと思っておったのに」 「嬶が怖くてな。そんな事したら、無事な左腕まで使い物にならなくなっちまう」  少なくとも千太は、女の尻を触る気は無い様だ。 「そう言うなて。良いぞう、女の尻は」  しつこく誘うのを断るも、ぬらりひょんは執拗。 「へえ……? じゃあ、あたしの尻でも撫でてみるかい?」  背後に祢祢子が居るのも気付かずに、ぬらりひょんは熱弁していたらしい。  しかし、祢祢子に見付かった以上。  しらばっくれる事は無理な様子。 「い、いや……。これは、だな……」  ぬらりひょんが弁明しようとするも、怒り心頭な祢祢子に話は通じない。  それだけ、ぬらりひょんの女癖の悪さは妖怪の中でも有名だと言う事か。  人間も妖怪も、ブチ切れると笑顔になると言うのは変わらない様だ。 「思う存分、撫でさしてあげるよ……!!」
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