~第一話~ ひとひらの、雪も消えゆく朝の靄

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「ねえ、ちょいと……」  顎で指し示す先には、奥の生活空間に通じる暖簾の近くに。  場に、そぐわない前髪残しの少年が。  腰に二本を差した少年は、辺りを見回すと誰も注意を向けていないのを確認。  おどおどしながらも、反物を袖に入れた。 「……、やったね……」  裕福とは言え無さそうだが、食うに困る様な装いでも無かった。  余りにも挙動不審な為、閻魔と江名。  二人は、見続ける。  慣れてない手付きは、どう見ても素人。  なんらかの理由が在るのか、兎に角。  バレない様にと、必死だった。 「盗むなんて莫迦な事するねえ。やっぱ、さ」 「だよねえ。あ、出てくよ?」  人間とは程遠いのに、考え方が人間臭い。  好奇心は猫をも殺すと言うが、好奇心を抑える事が難しい様だ。 「気に入った柄は有った?」 「無いねえ。ちょいと、行ってくるよ」  閻魔も心得た様で、残る。  江名が店を出ると、先刻の若侍が袋小路の。
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