~第一話~ ひとひらの、雪も消えゆく朝の靄

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 逆に言えば、道理さえ通れば人殺しだろうが盗みだろうが平気で遣る。  それが侠客と言われるヤクザ者だったり、義賊と呼ばれる盗人だったり。 「その辺にしな。見ろよ、こんなに怯えて。なあ、小町?」  名前の聞き違いか、それとも現代で言うキラキラネームか。  意外と、こうしたキラキラネームは江戸時代から存在する。  儒学者の本居宣長が、自らの手記にキラキラネームが多いと愚痴を記すくらいに。 「女みてえな名前えしやがって。本当にキンタマ付いてんのか?」  こうも集団で詰め寄られては、気の弱い者には恐怖そのもの。 「臭え!? こいつ漏らしやがった!?」  小町と呼ばれた少年の足元に、広がる黒ずんだ沁み。  カラカラに乾いた地面に沁みる沁みは、明らかにアンモニア臭が漂う。 「漏~~らした。漏~~した」  囃し立てる声は、明らかに楽しんで責め立てていた。  そこまで追い詰められ、小町と呼ばれた少年は泣く。 「泣いてやんの。母上の御乳が恋ちいんでちゅかあ?」  髷を掴み、無理矢理顔を上げて。  顔を寄せる。  代わる代わる覗き込むのは、遊びの延長と言う事か。
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