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「おじさん。あたし、これ欲しい。」
……ん?
「ママァー! 来て来て。」
大声で母親を呼ぶ少女。
まずい。子供の目はごまかせても、母親の目はごまかせない。きっと、かわいらしい顔の裏側にある卑猥なすじを見抜くに違いない。
「ちょっと、お嬢ちゃん。」
私は少女の口をふさいだ。
「いいかい、お嬢ちゃん。これは売り物じゃないんだ。代わりにほら、こっちの陸奥屋限定のなめこをあげるから。いいかいお嬢ちゃんだけ特別だ。みんなには内緒だよ。」
口を押さえられた少女は目を細めてうなずくと、かわいらしい本物を持って駆け出した。
ふう。危ないところだった。
いや、まだまだこれからだ。サムシングを安全な場所に移動するまでは危険は付きまとう。今回はうまくいったが、次もそうとは限らない。
今度こそ、誰の目にもつかないように落ちついていこう。
そうだ。落ちつけ。落ちつくん……。
「落ちつくっス。亀吉。」
後ろから声。私は肩に置かれた手を払いのけた。
…………お前が言うな。近藤。
「すんません。トイレに行ってました。」
振り向きざまにバチン。からのドカッ、バキッ。ドス、ドス、ドス。
パンパン。私はホコリをはらうように手をたたいた。
「今回のことはひとまず大目にみてやる。以後、気を付けるように。」
「あい。ずびばぜんでした。」
顔が二倍に腫れあがった近藤はおとなしくサムシングを担いだ。
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