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「バカな。ナニをいっているんだ。」
「俺はここまでっス。最後くらい、恰好つけさせてくださいよ。」
ふらふらと覚束ない足取りで階段をおりる近藤。その姿はまるで、決してギブアップしないマスクド・ハマーではないか。
「部長、御神体はまかせましたよ。」
のぼってくる女性の方へむかう近藤。
私は少し間をおいて、彼が見えなくなるころに階段を下った。きっと彼は女性を別の方向にむかわせてくれるはずだ。
近藤。お前の覚悟は無駄にしない。
上から迫る足音。しかし、下からの足音はピタリと止まった。
――いまだ!
私はサムシングを背負いながら、一気に階段を駆けおりる。
「ととっ、おいおいおいおい。」
なんで、なんでなんだ。
動揺しつつも、踵をかえして階段をのぼる。近藤が囮になり、障害のなくなったはずの道。そこからまた女性がやってきた。
もうひとりいたのか? それとも近藤が失敗したのか?
それとも、まさか。いや、まさか。まさか。
アイツ、逃げやがったのか?
そうとしか考えられない。もうひとりなんて存在しなかった。それに少し引き離すだけのことを失敗するとも思えない。
間違いない。アイツ、逃げやがった!?
あのウスラトンカチめ、あのウスラトンカチめがぁぁあ。
階段をのぼるも、上からは女性らしきスカートがヒラリ。かといって振り返れば、長い髪がたれた陸奥屋のはっぴがチラリ。
かくなる上は……。
私は真横にあるドアをみて唾をのむ。
7階店内入り口。この先に誰もいないことを祈りながら、私はドアに飛び込んだ。
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