サムシングを隠せ!

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 それをみたとき、幼い頃の記憶がよみがえった。  もう半世紀くらい前。まだ髪の毛の心配や老後の不安などなく、山にはいっては昆虫を捕まえ、川にはいっては魚を捕まえ、毎日がキラキラしていた頃の記憶。 『ミミズに小便をかけるとサムシングが腫れあがる』  きっと呪われるからだ。  幼い私はそう思っていたが、好奇心から糸のようなミミズに小便をかけた。しかしサムシングが腫れることはなく、呪いなんてないことを知った夏の日の出来事。  これはもしかしたら、そのときのミミズの呪いかもしれない。 「な、なんだこれは?」  私は口をぽかんと開けた。  本日をもって閉店する陸奥屋百貨店。屋上では有終の美を飾るべく、小さな祭がひらかれている。  陸奥屋の社員はことごとく屋上にかりだされ、通常の販売は私のようなベテランにも任された。そうした方が客としても慣れた顔だから、という社長の気遣いである。  なぜこんなものが店頭に置かれている。  いや、落ちつけ。落ちつくんだ。高橋 亀吉。  もしかしたら、これは幻覚なのではないか。私は一度メガネをはずし、還暦をむかえた目をこすった。  どうやら幻覚ではないらしい。  目の前に置かれた巨大なサムシング(肌色、今は薄もも色というのだったか)が圧倒的な威圧感をはなっていた。
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