サムシングを隠せ!

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 この言いようのない怒りをどこにぶつければいいのか。  私はぐっと拳に力を込める。固くにぎりしめた拳を仮にこの部下に叩きつけたとしよう。悪いのは私か? いいや違う。 「だいだいにして、お前が、こんなものを。」  震える声とともに拳骨を目線までもちあげる。 「しっ……、部長。まずいっス。客が来ます。」  近藤が口元に指をあて、季節外れの花粉症用商品棚の角から通路をのぞき込む。 「こっちに来ますね。ちょっと部長、ナニやってんスか。早くそっち持って。」  なんでこいつに指示されなければならないのか。そしてなんで私が先端の方を持たなければならないのか。なんでサムシングの頂点が少し湿っているのか。しかも梨汁でもかけたようにベタベタしている。  疑問が温泉のように溢れてきたが、まずはここから離れるのが先決だ。  私はベタベタした頂点をさけてサムシングを担いだ。 「このままエレベータに乗って地下倉庫に行くぞ。」  周囲を警戒しながら先頭を歩く近藤に小さく合図した。 「は? あんまハゲたこと言わないでください。」 「は、ハゲてなど……。」 「エレベータに客が入ってきたらどうするんスか。ここ5階っスよ。階段で行くのがベストっス。」  悔しいが納得の理由だ。悔しいが。  私は下唇を噛んで部下の指示にしたがった。   
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