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コツン、コツン、コツン……。
足音は近くまできて通りすぎていった。私はそれを「ありのままで」と連呼する映画のキャラクターの影から見守った。
「ねえ。」
後ろから声がする。
どうせ近藤だろう。まったく、奴のせいでとんだ最終日だ。
「ねえったら、ねえ。」
今度は肩を叩きながら、しきりに語りかける。
調子に乗りやがって。やはりここは一度粛正してやった方が社会のためだ。私は拳を固めて振り返った。
………。
拳をゆっくりとおろす。
なんということでしょう。お子様のような頭脳の部下が本物のお子様になって、しかも性別まで変わっているではありませんか。
…………んな訳あるか!
「お、お嬢ちゃん。どうしたのかな?」
営業スマイル。それも部長クラスの満面の笑みをお子様に提供する。
「えっとね。ここにいたお兄さんから、おじさんを手伝ってあげてって言われたの。」
ん? まてよまてよ。
するってえとなにか。あのアホンダラはサムシングをお子様に任せたってことか?
「そのお兄さんはどこに行ったか、わかるかなぁ。」
かぎりなく限界に近い営業部長スマイルでお子様に質問する。
「なんか、用事があるって。あれ絶対デートよ。」
齢い六十。十干十二支の還暦を過ぎた人生で、始めて人に殺意をおぼえた瞬間であった。
あいつ、アトデコロス。
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