山姥の怪

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「いつもはこんな山を二つも越えた村には来なねぇだが、頑張った甲斐が有っただ! おっかぁ、待っててけろ。」 弥助は既に元服していたが、未だ妻は無く老いた母と二人で暮らしていた。 しかし、母は足を悪くしてから出歩く事は稀であり更には流行り病によって床に伏していた。 幸いにも命に別状は無いが万一の場合が頭を過ぎると弥助は居ても立ってもいられなかった。 そこで彼は普段なら行かないであろう村まで遠出をして売りに歩いた。 その甲斐有ってか品物は殆ど売り切る事が出来たのだった。 「しっかし日も暮れて来ただ。 急いで村まで戻るべ!」 弥助は焦りを感じていた。 日の明かりのみが頼りである。 日が沈み切るとそこは暗黒と化す。 真の暗闇。 人里から離れ、 木々が茂る山道を行く。 「だ、誰かいるだか!?」 今、 茂みから覗く草木が動いた気がした。 自分の踏んだ枝が擦れたのだろう。 あるいは兎や何かが飛び出したのかも知れない。 野犬だったらどうする!? 弥助の心に不安が過ぎる。
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