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空は、雲一つない天体観測日和だった。皆、言葉を忘れて星に見入っている。
そんな沈黙を破り、最初に口を開いたのは有人だった。
「…なあ、玲一」
「……なんだい、有人」
「いや…さ、お前、本当に引っ越すのか?」
皆、黙って俺の返答を待っていた。
そう、俺・天月玲一は、朝の卒業式が終わったらこの街を離れる。その前に、何か思い出作りがしたくて、今日の天体観測を企画したんだ。
だって、小さいころからずっと一緒だった仲間とただ離れるなんて、俺にはできなかったからさ。俺は一息ついてから、話を返した。
「……親の転勤じゃあ仕方ないさ。引っ越しって言っても、隣町だから、運良ければ会えるよ」
「そ、そうよ有人。そんな遠くに行くわけじゃないんだから大丈夫だって! 今くらいはそんなこと忘れましょうよ…」
いつもは勝気な立華も、次第に語尾が弱々しくなっていった。
この雰囲気を壊したのは、慶介の一言だった。
「皆見てよ! 流れ星!」
「うお! すっげえ!」
「へえ…まあまあ綺麗ね」
「りっちゃんは素直じゃないなあ…。そんなんじゃ、玲一君に愛想付かされるよ?」
「な…! 恵! 余計なこと言うんじゃないわよ!」
…結局いつもの皆に戻った。俺がいなくても、慶介がきっとフォローするだろう。
もう、昔の泣き虫な慶介じゃない。それは、少し寂しい気もするが、正直安心した。
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