ゴキブリ野郎は走り回る。

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通報してもらい、俺も第一発見者ということで、事情を話したが、警察官も小首を傾げるだけだった。とにかくそれは事故ということで解決し、その去り際に頑張って働けよ。オッサンゴキブリと言われたので、うっせーと悪態をついた。 そんなことがあった夜のこと、公園のブランコに腰掛けて、小説家もどきの差し入れてくれた缶ビールをチビリチビリと飲んでいた。できれば一緒に飲みたかったが、そいつは今日は帰って寝ると言い残して帰って行った。付き合いの悪さに不満があったが、俺もできれば一人でいたい気分だった。昼時に見かけたあの事故が頭を離れずもやもやとして落ち着かない。アルコールの回った頭でもうすらぼんやりと考えていると、 カサ、カサカサカサカサカサカサと、虫が走り回るような音が聞こえた。俺はそちらに視線を向けて、ギョッと目を見開いた。飲みかけていた缶ビールを思わず吹き出しそうになった。 そこにいたのは、化物だった。その化物六本足で走っていた。人間の胴体らしき物があり肩から二本、脇腹から二本、最後に二本、その六本の足を交互に動かしてものすごいスピードでかけてきた。俺は驚きながらガシャンとブランコから落ちた。 その化物は前足らしき場所から二本の細長い触覚が生えており、それでこちらを探るように動かすと、カサ、カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサと全部の手足を動かし始め、前足の隙間に挟まった部分から勢いよく、顔らしきものが飛び出した。顔らしきもの、そこには大量のガラスが突き刺さり、そのまま抉りでもしたのか顔中が傷だらけで顔の原型を留めていない。 口がクワッーと開いて、脚をカサカサと動かす。俺は驚きながらブランコのチェーンを必死に登ってブランコのもっと上、柱のところに逃げる。ブラブラと不安定ながらも俺は下を見下す。 化物は手足をカサカサと動かしながら、ブランコをグルグル、グルグルと周回する。時折、俺を見上げては悔しそうにうなり声をあげた。まるで、落ちてくるのを待っているかのような行為に俺はたまらずうなり声をあげた。こんな場所にいつまでも止まってはいられない。だいたいブランコの鎖のところだって無我夢中で登っただけで降りられる自信などこれっぽっちなかったのだから。化物は触覚を揺らしながらグルグルとブランコを回る。時折、見上げては奇声を上げた。 「ちくしょう、ちくしょう」
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