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俺は…死んだ。
理由は分からないが、とにかく死んだ。
なぜ断言出来るかと言うと、俺の頭の上に黄色い輪っかが浮いているからだ。
そして、今俺の目の前にいる男…と表現していいか分からないが、とにかくそいつは人間じゃない。
3mは軽く超えているだろう巨体に、紫色の袈裟の様な物を身に纏っている。赤みがかった顔は剛毛そうな髭に覆われているが、眉間にシワを寄せ釣り上がった目は俺をギロリと睨みつけている。
そして…頭には二本の角が生えているんだ。
これだけ説明すれば十分だろう。目の前のコイツは鬼だ。それも…かなり偉い鬼だ。一般人なら三人は余裕で座れるだろう椅子に、ふんぞり返ってやがる。
推測するに、ここは黄泉の国の入り口に当たり、コイツは閻魔大王様ってところだろう。
「貴様、名を申せ。」閻魔大王と思われる鬼は、俺に向かって野太く耳に響く様な声を発した。
「はぁ…狸吉(たぬきち)です。」俺はペコリと頭を下げた。
「狸吉、生前は何をしていた?」
「生前って言うと…俺はやっぱり死んでいるのですか?」
「聞かれた事にだけ答えれば良い。」閻魔大王は椅子から身を起こして俺を睨み付けた。
「…はい。職業って事ですかね…?うーん…特に何も…フリーターってやつで。」
「…ふむ。貴様は今審判の時を迎えておる。その意味は分かるか?」
「天国とか…地獄とか…ですか?」
「うむ。話が早い。貴様の処遇はこれから執り行う試練によって、その行き先を決めるものとする。」
「試練…ですか?」
「そうだ。天国へ向かう者にはそれ相応の資格を必要とする。そして貴様には三つの試練を与え、それぞれ審査する。」閻魔大王はそう言うと懐からキラリと光る何かを俺に投げ渡した。
「お、おっと!」俺はそれを両手で受け取ると、それがビールの中ジョッキぐらいのグラスである事に気付いた。
「こ…これは何ですか?」俺は怪訝な面持ちで閻魔大王に問い掛けた。
「試練に使う物だ。一つの試練を突破する毎にその器に水を与える。突破出来たら色付きの水を、突破出来ねば透明な水を。見事三つの試練を突破出来たのならば、その器の色は相応しい色へと変わるだろう。さあ行け。」そう言うと閻魔大王は、ここから右側へ続く道を指し示した。
「あの……危険なんですかね?」
「危険の無い試練なぞ存在せぬわ。さっさと行け!」
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