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三日後。鎌形の三日月が空から消えた日、死神は令嬢の命を貰い受けていった。
彼女の体が火に焼かれ、灰となって天に昇る様を、青年は令嬢の父親と共に見送った。
葬儀が滞りなく終了した直後、青年は令嬢の父の元を去った。令嬢が彼のために遺したものは、たった一つの物を除いて全て青年が受け取りを拒否した。
そうして身体と影のように常に寄り添っていた二人は分たれ、さらに時は流れる。
少年は、三日も食事にありつけずに疲弊していた。着ている衣服はぼろ布のようで、足取りは今でも倒れそうな程である。
その身体が石に躓いて倒れそうになったその刹那、男性がその身体を受け止めた。
「大丈夫か?」
酷く痩せ衰えたその姿を見遣り、彼は足早に少年を担ぎ運んでいく。暖かなベッドの上に少年を座らせると、鍋からスープを掬う。そして、
「腹が減っているだろう、ゆっくり食べなさい」
少し錆びた銀の匙が、仄かな甘みと温かさを連れてやってくる。
――約束して。
私が貴方にしたように、貧しい人を助けてあげて。
生きたくても生きられない人のために、ほんの少しの気配りで生きていける人を助けてあげて。
そして、いつか私の元に来るときには、その思い出を一杯持ってきて――
今日も誰かの口元に、少し錆びた銀の匙が伸びる。富む者から貧しい者へ。生きる者から生きる者へと繋がっていく。
手を繋ぐように。
思いを、つなぐように。
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