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違う、その言葉はキミが言うべきではない。その言葉を真に言わなければならないのは、自分の方だ。
「あの時、死を受け入れる貴方を見て、私は思ったの。『この子を助けないといけない。私の持っているもので、この子は助けられるのだから』って。だからお父様にお願いして、貴方を引き取ることにしたの。そして、私の持っている全てをもって、貴方を助けてあげようと思ったの……でも」
背中を丸め、息を整えながらそれでも懸命に話す令嬢を見て、青年の心は潰れそうになる。何度話を止めようとしても、令嬢は言葉を止めない。
それは、最期一瞬だけ強い光を放ち消えてしまう蝋燭のようにも似ていて。だからこそ青年は逡巡してしまった。
……この輝きを、最期の命の煌めきを吹き消す権利が、自分にあるのかと。
「いつの間にか、私は貴方に助けられていたの。ずっと不安に怯えていた心を、照らしてくれた。一杯の思い出をくれた。お金や宝石は持って行けないけれど、この綺麗な思い出なら持って行ける」
もういい、喋るな。そう言おうとした。だが声が、初めて会った時のように音として出てこない。
「私が持って行けないものを、貴方にあげる。だから――」
――約束して。
それは、互いの命を懸けた、最期の約束。
微笑みながら涙を浮かべる少女と、涙を見せずに声のない慟哭をあげる少年の、契約。
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