0人が本棚に入れています
本棚に追加
昔、小さな男の子が、小さな村に住んでいた。
家族は6人いた。
祖父、祖母、父、母、弟がいた。
質素だが、幸せに暮らしていた。
あるとき、西の大きな都市で邪悪なものが生まれた。
それは、人々の魂を食らい、人から人へと伝染し、
確実に成長していった。
世界を覆い尽さんばかりだった。
男の子の住んでいる小さな村は、邪悪なものからはるか遠くにあった。
村の者はだれ一人邪悪な者の存在に気づかなかった。
気づいているものもいたが、気には留めなかった。
しかし、男の子は、毎晩、大事な人が、邪悪なものに飲み込まれる夢を見た。
大事な人を、目の前で何度も失う恐怖と、自らの力のなさにおびえ、とうとう男の子は、悪魔にあるお願いをした。
「僕はどうなってもいい、家族にずっと幸せでいてほしい。友達も恋人も、僕の未来もいらない。どうか、助けてください。」
毎日、汗をかき必死に祈る男の子を気に入ったある悪魔がいた。
悪魔はこういった。
「家族の幸せはたやすいことだ。ちっぽけな人間6人分の数十年の人生を保証するなぞたやすい。やってやろう。お前に、力をくれてやる。」
男の子は、家族の写真を一枚、お守りに携え、覚悟をした。
悪魔は続ける。
「ただし、お前が苦しむ姿が見たい、暇をしていたから余興にぴったりだ。お前は、まじめで、根性もある、しかもいい奴だ。俺とかかわらなければ、お前は歴史に名を残す立派な男に成長する。そんな人生をめちゃくちゃにしてやりたい。とおもっている。引き返すならいまだぞ。」
男の子は言った。
「家族が幸せでなければ、僕はさびしい。だから力と罰を与えてくれ。」
悪魔は言った。
「わかった。明日朝起きたら、始まる。今日はゆっくり眠れる最後の日だ。せいぜい休んでくれ。」
男の子は、まどろみに身を任せた。
最初のコメントを投稿しよう!