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翌朝。
黒い霧が村を覆っていた。
目が覚めると、だれもいなかった。
男の子は、家を飛び出した。
村はずれで、みんなが喧嘩をしていた。
その真上に、真っ赤な顔をして、翼をはやした何かが飛んでいた。
何かの口の中から「黒い文字」がたくさんあふれてきては、村人の耳に入っていった。
質素な暮らしから、新たな暮らしへと、強烈に進化するための「欲」を吹き込んだ。
弱いものは淘汰され、より強くて効果のあるものだけに価値が見いだされる。
それは良いことである。
だが、男の子にとっては邪悪で嫌悪すべきものでしかなかった。
男の子は、翼を持つ何かに飛び掛かった。
その時、男の子の体はビキビキと音を立ててかわっていった。
そこには、血走った眼をした青年がいた。
青年は、とてつもない跳躍力で空へ飛びあがり、鋼の怪力で翼をむしり、それを地面にたたきつけた。
勝った。
一瞬の出来事だった。
振り返ると、はっと我に返っていく村のみんながいた。
母がいた。
父がいた。
祖父が、祖母が、弟が、
みんな素っ頓狂な顔でそこにいた。
青年はうれしかった。
「きっとまた、みんなで暮らせる。何もない毎日だけど、僕はそれが好きだ。僕は、大好きな場所を守ったんだ。これって偉いことだよね。」
青年の顔に、石が当たる。
村のみんなは、なにか悲しい顔をして怒鳴っていた。
母が言った。「近寄らないで、あなたなんか私の子じゃない。もっと立派な普通の子になりなさい。」
父は言った。「お前がこのようでは、おれたちの村はもうおしまいだ。出ていけ。もう一度あの翼をもった立派な方に、謝って教えを乞うてきなさい。」
子どもの心持ったまま成長してしまった青年は、悲しくて母に飛び掛かった。
「変わりたくなんかない、みんな一緒に妻でも暮らすんだ」
はずみで、母はよろけて腰を強く打ち、うずくまった。
父は剣を抜き、振りかざした。
石が飛んできた。
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