魂掃流~コンソール~

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 それは勇ましい冒険者の主観視点で届けられた。世界を股にかける男の物語。    ある時はジェット気球で空を飛び、またある時は地中深くの洞窟へ潜り込んで財宝を手に入れる。  男が憧れる物語であり、しがないサラリーマンのシゲオとは正反対の生き方であった。 「今のオレのスピリチュアルが停滞してるのも、こういう事に心をときめかせた方が良いという合図なのかもしれない」  30分の異次元ツアーを終えて、シゲオは液晶画面を見つめた。そこには今映ったばかりの冒険者の顔。カメラで取り込んだシゲオの顔が綺麗に合成されていたのだ。 「凄いなぁ……僕がこんな風になれたらどれだけ人生が楽しいだろう」  魂掃流(コンソール)が反応し、シゲオのスピリチュアルレベルが『停滞』から『躍動』へと変わった。気持ちの変化を機微に察知して表示するのがこの機械の特徴らしい。 「あら、声がしたので来てみたら独り言かしら?」 「いい物を見させてもらったよ。違う世界の自分のようだった」  液晶画面には『Shigeo~アナザートラベラー~』という題目と共にスカイダイビングをしている映像が映りこんでいた。 「一度プレイをすれば携帯電話でもこの道具を体験出来るみたい。 定期的にアロマオイルとか購入をすれば、月々の利用料金だけでスピリチュアルカウンセリングが出来るのなら安いものね」  ミサキがペラペラと説明書をめくる様子を、シゲオはぼーっと見つめていた。確かに、そこはかとなくやる気が出てきたように、自分でも思える。 「現実世界でもこうなれるように、頑張ろうかな。しかしたった30分なのに1ヶ月は旅に出ていた気がするよ」  ミサキに対してはにかむシゲオ。その時間の感覚は嘘ではない。アロマの作用によって、脳が時間の判断を誤るのだ。 「もう一度、試してみる」  そうミサキに告げたシゲオは、ゆっくりと布団にもぐり瞳を閉じた。
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