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「ちょっとそこの君!」
――うるさいな、今いいとこなのに。
「君!」
――肩を叩かれて、渋々振り返る。
そこにいたのは、背の高い男の巡査だった。いや、アタシが座ってるから高く見えるのか。
「女子高生がこんな真夜中に外出、しかも覗きだなんて、感心しないな」
え? 何? どーゆーこと?
「何言ってるんですか、アタシはただ本を」
「本って、どの?」
あれ? おかしい。アタシはついさっきまで文庫本のページを繰っていたはず。なのに今アタシの手にあるのは――
「随分と熱心に見てたけど、あのマンションに好きな男の子でもいるのかい」
黒い双眼鏡だった。もちろん見覚えはない。そしてアタシは、周りが異様に暗いこと、水音が聞こえることに同時にきずいた。立ち上がって見回すと、そこは川沿いの草むらだった。腕時計は2時10分を指している。牛3つ時だ。
「まあいいよ。すぐそこに交番があるから、話はそこで聞こうか」
「あの、ま、待って下さい。最後に1回だけ、向こう岸を見てもいいですか?」
「……少しだけだよ」
ついさっき気がついた時に双眼鏡を向けていた方向を見る。土手の上に、2人の姿があった。
『そんな、マジかよ……』
柏崎怜也の声だった。というか、何故この距離で聞こえるの。
『お代は結構と言いましたが、また会えたら人工じゃないいくらを食べさせて下さいね』
女の子の声だった。魚卵に何か思い入れでもあるんだろうか。
『なんて、無理でしょうけど』
スポットライトのような街灯の下、少年は突然、煙のように消滅していった。
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