Esprit liseur

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「どうですか先輩私の小説!」  ここは文芸部の部室。次の部誌に投稿する作品を、部長である先輩に一足早くチェックしてもらっている。読み終えると先輩は眼鏡のフレームをくいっと上げ、独特のテノールボイスで語り始めた。 「読者が物語の中に入る、というのは珍しいとはいえないネタだし、特筆した何かがある訳ではないな。意図的な誤植で文字による世界、つまり作中作であることを暗示しているのは分かった。ただやり過ぎだ。全部で17箇所も見つけたぞ」 「えーそうですか? 私的には結構自信作なんですけどねぇ」 「柏崎に死んだと思い込ませた件で、この世界から脱出する方法は推理できるが、だったらそれ意外のかけあいは余計じゃないのか?」 「そこは女の子の気持ちを考えましょうよ。ただ追い祓うより、会話を楽しみたいじゃないですか。あと先輩、思い込まされたのは菊池の方です」 「その菊地珠江は最後に何を言おうとしたんだ? 本当の目的は、とかか?」 「単に名前を聞こうとしただけです。特に意味もないので中途半端に終わらせて含みをもたせました」 「ならもう少しエ夫の余地があるな。ちなみに?」 「ポッキーです」 「犬か!」 「あっ酷い! そういうこと言うと日下さんが怒りますよ! ポッキーちゃんに噛み付かれますよ!」 「ますます犬っぽいな」 「先輩私のこと不思議ちゃんだと思って馬鹿にしてません? 胡蝶の夢って知ってますか?」 「荘子だろう? この世界は胡蝶が見ている夢かも知れないって」 「その通りです。この世界にポッキーがいないことも、この世界が一冊の本ではないことも、証明する手立てはありませんから
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