第1章

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「まずいな……」  多家良 好一(たから こういち)は日の落ちかかった教室で、自分の机をペンライトで照らしながら一人ごちた。 (あれがないと、もう明日にはテストなのに)  オレンジ色の夕焼けはどんどん速度を増して地平線に沈んでいき、それが更に焦燥感を加速させる。 (クソッ、せっかく手に入れたのに! これじゃ何の為に大枚払ったんだ!)  苛立ちは視野を狭くし、先程から同じ場所ばかり探している。  もはやクラスメイト全員の机の中を調べるしかないか。そう決心した時――――  ころころ、ころ。  足元に転がってきたのは、一見すると飴玉の包み紙のようだった。  興味本位に拾い上げてみれば、それがくしゃくしゃに丸めた紙だということが分かる。一体誰がこんなことを、と思考が働く前に、一体何が書いてあるのだろう、という好奇心の方が勝った。  好一は、そっと紙を広げてみた。破かないように、紙のシワを伸ばすように、少しずつ。 「――……なん、だよ……これ……」  喉の奥が張り付いたように、うわずった声が飛び出した。
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