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「智志さん!このたびはうちの千咲が申し訳ありません!」
玄関に入るなり頭を下げる、千咲の母親の美津子さんに、母さんが言っていたことは本当だったんだとじわじわと実感する。
「みっちゃん、ここじゃなんだから、入って?」
美津子さんの背中にそっと手を当てて、母さんは部屋に入るように促した。
部屋に入ると重い空気が俺達を包む。
「千咲も連れてこようと思ったんだけど………。
電話に出ないのよ。私だけですみません」
「いいのよ、みっちゃん………」
美津子さんの横に腰掛けた母さんが、気遣うように美津子さんの腕に手を添えた。
「たぶん、千咲は今頃2次会に行ってると思います。
俺達、品川駅で別れたから………」
そう言うと、美津子さんがハッとしたように俺を見た。
「品川駅?」
「はい………」
あの時の千咲の顔と、美津子さんの顔がかぶる。
………本当、良く似てる。
「………やっぱり………」
美津子さんは小さくそう呟いて俯いた。
「やっぱりって?千咲さんに何かあったの?」
「今日の夕方ね………蒼介さんがうちに来たの」
「蒼介さん?」
「あ、千咲の、元、婚約者の三門蒼介さん」
「あぁ………」
………三門が、千咲の実家に来た?
「蒼介さん、5年前の事、何度も詫びてね………。
千咲とやり直したいって言ったの。
千咲と話すより先に、親の私たちに許可をもらいに来たって。
5年前の件でね、蒼介さんは千咲と関わらないように念書を書かされたから。
今日5年ぶりに千咲と再会して、やっぱり千咲のこと諦めきれないって」
「何を今更………」
思わずそう言ってしまった。
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