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『デイビット。奴らに見つかったぞ。時間が無い』
「ミシェル。聞いてくれ。俺達は、俺たちの時間を生きた。例えそれが惰性に満ちていて、怠惰に流れていたとしても。でも、俺達は出会って、愛し合えた。他の、この世界の人と言う種族が忘れてしまった感情を取り戻せたんだ。老いない、死なない身体を持っていても、それでも人間に戻れたんだ」
「デイビット、あなた、体が……」
「君を、失わせるわけには行かない。外の世界に送り出す。俺の機械と、外の機械を同調させて、動かしてやる。君はもう、データなんかじゃなくなるんだ。もう、誰からも手出しさせない」
デイビットは、その言葉をきっかけに消え始めた。
「デイビット、だめ、待って」
「俺はいけない。俺は、先に見つかったからか、もう、時間が残されていないみたいだ」
彼は、私の言葉に頷くようにして私の手を強く握り締めると、言った。
「君を愛してる。どうか、生きてくれ」
そして、デイビットの手の質感が消える。握り締めていた力も。
体温も。
同時に私の肉体も。
……部屋にある機械が作動している。
思った。
デイビット。酷く一方的じゃないか。
一方的に話して、こちらの理解が追いつかないまま勝手に巻き込んで。
ああ、この喪失感は何なのだろう。
長い暗闇が私の頭に広がり始めた。
だが、遠くに、小さな、本当に小さな光が見える。
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