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壁には、『ウサギ オイシ カノヤマ コブナ ツリシ・・・』と、『故郷』の歌詞が今となっては掠れてしまった赤いペンキで書かれており・・・。
最後には・・・。
『シマノ ミンナ センソウガ オワツタラ マタ イツシヨニ ベンキヨウ シマセフ。
ソレマデ オトウサマ オカアサマ ヲ タイセツニ シテ コウコウヲ ツクシ ミナモ カラダヲ ダイジニ スルノデスヨ』
と、書かれてありました・・・。
「センセイ オクッタ ゴホン ココニ アリマシタ。」
クニオは、私に壁の一角を指差しました・・・。
なんの変哲もない大きな石の脇・・・この本を読んでいた少尉さんはここに座って『星の王子様』を読み・・・そして、ここから出撃したのだと思いました・・・。
私がそう思ったのは、送ってもらった本の最後のページに小さいながらも几帳面な文字でこう書かれてあったからです。
『明朝、陛下ト祖国ノ万歳ヲ斉唱シ 部隊ヲ率イテ突撃セントス。
帝国軍人トシテ最高の誉レナリ タダ 残シテキタ 妻ノ事 ソシテ テグジュペリ ノ 傑作ヲ 完読出来ヌ 悔シサ
未練トシテ 残リシ。
未読分ハ 携行シ アノ世デ存分ニ楽シム所存。
願ワクバ 最愛ノ妻ヨ幸セニ。』
クニオに手を引かれながら洞窟から出てきた私は、零れる涙に前が見えないいまま、クニオに『日本からのお土産』を渡しました。
「センセイ アリガトウ キット ミンナ ヨロコブ デス イチノセジョウトウヘイサン モ クマガワゴチョウサン モ サワショウタイチョウサン モ ミンナ ミンナ・・・。」
クニオは、私が差し出した『桜』の苗・・・を両手で受け取ると、洞窟がある丘・・・かつて学校があった場所に丁寧に植えました。
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