僕。

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行き着いた街をさまよい歩く。この街ではいろんな怪奇現象がよく起こる。プールの白いもや。人を過去に飛ばす暴走トラック。幽霊が使う公衆電話、街を徘徊する化物。そのほかにもたくさんの怪異がこの街にやって来てはそして出て行く。 僕はそんな怪奇現象の後を覗き込むのが僕の趣味だった。やることもなければ、することもない僕にはそれぐらいしかすることがない。 目を閉じれば、この一日で目撃した光景がよみがえる。一枚、一枚、切り取った写真のように場面が脳裏に蘇る。ドンッ、ドンッと空砲の音が響く。ああ、もう少しで夏祭りなんだなと思う。あの公園に居座るオッサンがそんなことを言っていた。 あの駄菓子屋のおばあちゃんは、近所の子を誘って行くのかな? あの小説家もどきは、あのオッサンと一緒に安酒でも飲むのかな? なんだか、羨ましいなぁと思うといてもたっても居られなかった。 夏祭りの当日、数多くの屋台が立ち並ぶ街道を僕は狐の面をかぶって歩いていた。少しの間なら実体を保つことができる。数多くの人達の合間をぬって歩きながら出店を見て回る。お金がないから何も買えないけれど、見ているだけでも楽しい。と、そのときだった。 くじ引きの出店の近くに、綿飴を持った五歳くらいの男の子がオロオロと見ながら出店を見上げている。出店のオッサンは男の子に気がついていなかった。男の子の身長が低すぎるし、周囲の喧騒が男の子の声をかき消してしまっているのだろう。 僕は男の子をそっと抱き上げて、 「おじさん、くじ引き、一回できる?」 と、驚いた様子の男の子を抱え上げながら言う。男の子は首にがま口の小銭入れをぶら下げていて、男の子ががま口を開けてジャラジャラと小銭を出す。 「えらいね」 僕が言うと、男の子は狐のお面びっくりしたようだけれど、ちょっとしてから、 「うん」 と、小さく頷いた。オッサンに料金を支払って、くじ引きを引く。景品はいかにも安物と言ったものばかりだけれど、その中にある玩具に目がいく。母と遊んでいた頃、真っ先に手に取った玩具のパチンコだ。 男の子がくじ引きの箱に手をつっこんで、ごそごそと探り、その中から数枚の紙を取り出した。本来なら一枚、取り出すのが普通なのだろうけれど、男の子にはわからなかったようだ。オッサンは苦笑いしながら男の子が引いたぶんだけの景品を袋に入れて手渡してくれた。
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