僕。

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男の子はよくわかってようだったけれど、袋の中のラッパを取り出すとピーピーと吹いて僕の顔を見上げてニコッと笑った。僕も苦笑しながら見つめ返すと男の子がキュッと手を握ろうとして、両手ともふさがっていることに気がついて困ったような顔をした。 僕はやっぱり苦笑いしながら、男の子を抱え上げて両肩に乗っける。男の子が嬉しそうに笑い、ピーピーとラッパを鳴らした。肩車しながら出店を見て回る。男の子があっちーとか、こっちーとか言われるがままに男の子の言われるままにする。聞き逃すとラッパを耳元で鳴らされてしまい、無理矢理、気づかされる。 ひと夏の祭りの時間はあっという間にすぎていく、騒ぎ疲れたのか男の子は僕の頭をしっかりと握りながらムニャムニャと寝息を立て始めた頃。 「坊や!!」 と着物の女性が僕を見つめながら、いや、僕の肩車している男の子に向いている。早足で近寄ってきて僕に向かって言う。 「すみません、その子がご迷惑をかけていませんでした?」 「え、いいえ、そんなことないですよ」 としどろもどろになりながら答える。母さんと言いそうになった。近寄ってきた女性は僕の母にそっくりだった。あの頃よりも年をとったけれど、面影や雰囲気をちっとも変わっていない。儚そうなのに妙に芯の強そうな表情だった。男の子のくじ引きで引き当てた商品の詰まった袋を手渡すと、その中にあるパチンコを彼女は寂しそうに微笑むのが見えた。 「どうしたんですか?」 「いえ、亡くした子のことを思い返してしまって、すみませんね。何にも関係ないのに」 と、彼女は目尻に溜まった涙を拭った。関係ないなんてない、そこ子は僕だと言いだすことはできたけれど、 「いえ、それならこれは大切にしてあげるべきですよ。きっと喜びます」 無邪気に眠る、弟の頬をちょんとつつきながら言う。狐の面で隠れていてよかった。隠れていなければきっと泣き出してしまっただろう。それではと僕は言って母と別れる。少しずつ、身体がパラパラと崩れていくのがわかった。 出店を見回りながら、あちこちを見る。幼い男の子を抱く息子夫婦と、それに付き添うおばあさんと近所の子供。 相変わらずのダメ人間で深酒した小説家もどきとゴキブリオッサンに、絡まれる顔中に包帯を巻いた男。たぶん、事故を起こしたトラック運転手だろう。 無事だったのか。よかったと笑う。
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