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治療して元気になった富士丸は、すっかり一家にとけこんだ。
昼間は家の中でゴロゴロたり、オモチャにじゃれたりし、ときどきは外へ出て遊ぶ。どこへ行くのかはわからないが、バッテリーが切れそうになる夕方ごろ、充電のためにちゃんと帰ってきた。
足音もたてずに庭に入ってくると、アルミサッシのガラスを前足で叩いた。母か幸子が開けてやると、部屋の端で自分でコンセントにプラグをさし込み、充電が完了するまで動かない。その様子は眠っているかのようだった。夜が明けるころには充電が終わっており、再び活動をはじめるのだ。
週末、単身赴任の父が一カ月ぶりに帰ってきた。たった三日でとんぼ返りしなければならなかったが、久しぶりに家族がそろった夕食はにぎやかだった。
「ほう、ロボット猫ね……」
リビングのカーペットで毛づくろいしている富士丸を見て、父は目を細めた。
「本物みたいだな」
人工毛皮なので、やはり見た目は嘘くさいが、それ以外は猫そのものだった。タンスの上へのぼったり、塀の上を歩いたりもする。
「かわいいでしょ」
幸子は満足げに言った。
――にゃあ
富士丸は媚びるようにないた。
「ごみ棄て場で拾ってきたんだって?」
「うん。だってかわいそうだったんだもん」
「大事にしていたペットなのに、壊れたからって棄てるとはね。本物のペットとかわらないね。いやむしろ、機械だから余計平気になれるのかもしれんな。世話は幸子がするのか?」
「だれもしないわよ」
と母。
「そうよ。だって餌を食べるわけでもなし」
幸子は富士丸を抱き上げる。
「それもそうか……」
父はどこか物足りないような口調でロボット猫を見つめた。
「ペットというより、ぬいぐるみのようだな……。寿命もないし。いつまで飼うことになるんだい?」
「ずっとよ。ずっとかわいがるの」
幸子は無邪気に言った。
「でも外へ出すんなら、気をつけたほうがいいよ。だれかに盗られたり、壊されたりするかもしれないから」
「うん……。それもそうね」
幸子は富士丸の頭を撫でた。もしかしたら、すてられていた富士丸は誰かに壊されたのかもしれない、と思った。
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