富士丸

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 ある日のこと、外から帰ってきた富士丸を家に入れてやると、よろよろと足取りがふらついていた。 「どうしたの!」  人工毛皮は泥で汚れており、尻尾もちぎれかけていた。やっとのことでコンセントにたどり着くと充電を始める。気のせいか、ほっとした表情のように見える。 「お母さん、どうしよう……」  台所からリビングにとびこんできた母は、富士丸の様子を見て目を丸くした。 「まあ、たいへん」 「事故なんかじゃないわ。きっとだれかに襲われたのよ」  幸子の声は悲鳴に近かった。  はからずも、父の言っていたことが現実となってしまったのである。 「ひどいことするわねえ……」  母は、富士丸の損傷の具合を見てみた。 「早くサービスセンターに持っていって、治療してもらわなきゃ」 「あした、あなたが学校にいっている間、いっといたあげるわ」 「ん。ありがと」 「でもこれから気をつけなきゃいけないわね。あまり外へ出さないようにしよ。トイレに行く必要もないし、運動させなきゃいけないってわけでもないんだし」  幸子はうなずいた。 「でもまさか、うちの近くにこんなことをする人がいるなんて――」  そのことがショックだった。
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