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ところが――。
学校から帰ってふと庭を見た幸子は、自分の目を疑った。
富士丸が、なにかを引きずって帰ってきたところだった。それは、産まれて間もない子猫の頭部だった。
富士丸は、幸子の姿を認めるや、くわえていた猫の首を放り出し、その場で楽しそうに、走り回りだしたのだった。それは、まるで得物を捕らえた狩人の喜びを表現しているかのようだった。
幸子は戦慄を覚えた。
「お母さん! たいへんたいへん」
家に上がり込むと、母の仕事場へ入った。母は、在宅でできるパソコンでのデータ入力作業をして家計を助けていた。
眼鏡をかけた母は、ディスプレイから顔をあげると、あわてた様子の娘を不審そうに見返した。
「なにがあったの、そんなにうろたえて」
「富士丸が、富士丸が――」
母は幸子と庭に出て、声を飲み込んだ。
「どうしよう、これ、だれかが飼ってたペットだよ」
「どうするって……」
名前が書いてあるわけでもなく、だれが飼っていたペットなのかわからない。謝りにいくにも、どこへ行けばいいやら。
近所に聞きに回ってもいいが、そこまでする勇気がなかった。単身赴任の父に相談するほうがいいか……。いろんな思いが脳裏に交錯した。
富士丸はいつものように部屋の隅のいつもの場所のコンセントにとりつき、充電モードに入っていた。気のせいか、自分のしたことに満足げな表情を浮かべているように見えた。
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