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一人きりのアトリエに、モララーは立ち尽くす。
自分を囲む「彼女」の絵を見ると、モララーはくしゃりと顔を歪めた。
生温い涙が、頬を濡らしていく。小さな嗚咽が、アトリエに響く。
髪は、栗色のロングヘアー。
美しくて、いつも傍にいてくれて、優しい笑顔を浮かべていて……。
( ∀ )「そんな『彼女』なんて、やはり居なかったんだ」
傍らのテーブルの上、置きっぱなしになっていたパレットナイフを手に取った。
それを握りしめるとモララーはキャンバスにゆっくりと歩み寄る。
そして、強く握りしめたナイフを振りかざし、描かれた「彼女」を切り裂いた。
――彼女は存在しない。
そう、何度も呟きながら。
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