(,,゚Д゚)待ち人のようです

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太陽もすっかり隠れた頃。 からころと下駄を鳴らし、川沿いを歩く男が一人。辺りはしんと静まり返っていて、男の足音の外に聞こえるのは川の流れと虫の声くらいのものだ。 からころ、からころ、からん。 ふいに景気良く響いていた下駄の音が止んだ。ぽつり、と雨粒が男の頬を打つ。 これはいけない。一張羅の着物を濡らすまいと、男はどこかで雨宿りをしようと駆けだした。なんとも運の良い事に、少しばかり行ったところに既に店じまいを終えた損料屋。男は一目散にその軒下に駆け込んでいく。 なんとか濡れずに辿り着いた、と男は安堵の息を吐く。視線の先には、赤い鼻緒の下駄。そこで男はようやく軒先に先客がいたことに気がついた。 そこにいたのは、若い女だった。梅鼠色の着物を身に纏う、色の白いの女だ。肌が生っ白いせいで唇にひいた紅がやけに際立っている。 目を伏せる彼女の顔はどこか翳りがあるように見えた。男はそそくさと隣に邪魔すると、横目でその女へちろりと視線をやった。 (,,゚Д゚)「其方も雨宿りかい」 女は少し驚いたように男を見て、それから緩く首を横に振った。 ('、`*川「……わたくしは、人を待っているのでございます」 (,,゚Д゚)「ほう、もしや逢い引きかね」 ('、`*川「名も知らぬお方に語る事じゃあございませぬ」 女は透き通るような声だった。愛想を振りまく事もなく、ただ悲しげに目を伏せるばかりだ。 ーー美しい女だ。 男はほうと息を吐いた。
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