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改札を飛び出し震える体を片手で擦りながら、あてもなくフラフラと歩いていると、肩にかけたバッグから流行りの曲が聞こえてきた。
夜の気配が漂う都会の街は、今起きたばかりの人身事故のことなど全く知らない人々が陽気に笑ったり、お喋りしながら通り過ぎてゆく。
そんな人混みを避け狭い路地に入った私は
バッグからスマホを取ろうとして気付いた。
左手に握られた小さな石。
そっと手を広げると色とりどりの石がいくつもあり、中には宝石のようにキラキラ光る石もある。
女の子や女性に人気のパワーストーンという石だ。
あの女性が身に付けていたパワーストーンのブレスレット。
一瞬、捨ててしまおうかと頭を過ったけど出来なかった。
だからと言って今さら、あのホームに戻り駅員に声をかける勇気もない。
もう一度、手のひらの石を見た。
バッグからポケットティッシュを取り出して、パワーストーンを包みこんだ。
そっとバッグの底にしまいこんでから、ずっと鳴りっぱなしのスマホを代わりに取り上げると
【浩太郎(こうたろう)】
恋人からの着信だった。
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