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せめて。
遺された祖父の書斎の本棚に詰め込まれた資料から、何か丸写しにできるものが見つからないかと探してみる。
小さな書斎。入口正面には大きな窓が一つだけと、そこから景色が見えるよう置かれた机が一つ。
床に散らかしたノートを蹴り飛ばしながら、両壁際の本棚から本を探していると、ふと気がついた。
それは、十冊ほど並べられた雪の結晶の図鑑で、背表紙に描かれた六角形の模様につられた悠太は一冊手にとってみる。文庫本サイズで、まだ本棚の奥行きが残されたスペースには、小さな木箱が隠されていた。
「なんだ……これ」
本をどかせば出てきた木箱に悠太は手を伸ばす。
祖父のものだろうか? けれど何故、こんなところに。まるで他人の目にわざと触れさせないよう隠されたその木箱に興味を持った悠太は床に腰をおろすと、一体何が入っているのか確かめようとした。
暗いところに押し込められていた割には金具は錆びていなく、彫った模様も薄れていないようで。オルゴールに似た箱の蓋を開ければ、中にあったのは箱の模様と同じ雪の結晶だった。
けれど本物の雪の結晶よりはるかに大きい。と言っても手のひらに収まるくらいの大きさの雪の結晶が五枚、布が敷かれた箱の中に並んでいた。
一枚は薄い赤色。一枚は薄い青色。もう一枚は薄い茶金で、もう一枚は水に混ぜたような白。あと一枚は本物そっくり透明の雪の結晶。
どれも形は違うが、どれも見たことがある雪の結晶のうち、一番左端にあった薄い赤色の結晶を手に取ってみる。
ひんやりと冷たい――――でもとけない。
一体何でできているのだろうか。
触れることのできる雪の結晶の不思議さに、小さないくつもの隙間から光を透かして見ようとしたとき、あまりの薄さに壊さないようそっとつまんでいた指先から、ポロリと結晶が外れ落ちた。
「あっ――――」
しまった――。と思った時にはもう遅く、胡坐をかいていた膝に一度当たった結晶は、床の上で音を立てて砕けてしまった。
「やっば……い――――!」
慌てて拾い集めようとした、その時。
散らばった欠片を吹き飛ばそうというくらい、悪戯に吹いた風が、悠太の前髪を跳ね上げた――。
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