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“あなたの明日をお返しします”
そう一言だけ書かれたメモを添えて僕のもとに届けられたのは、おもちゃの小さなオペラグラスだった。
白い真珠層の丸い筒がお洒落なそのオペラグラスは、お菓子の空き箱を紐で縛っただけの小包にして、僕の家の郵便ポストの蓋を大きく拉げてくれていた。
酷い悪戯をするもんだと思いながら、僕はお菓子の甘い香りがうつったメモを鼻に近づけて、ついお腹いっぱい食べた気分になる。そして、そんな悪戯をしでかすであろう犯人を思い出していた。
『本日ハ晴天ナリ。本日ハ晴天ナリ』
“あなたの明日をお返しします”
夢見がちで空想的な言葉。
今日という日にポストに詰め込まれたオペラグラス。
きっと彼女――そう、メイだ。
僕はオペラグラスを両手で持つと、すぐさま家を出る準備をした。といっても、持っていくのはこのオペラグラス一つでいい。
『本日ハ晴天ナリ。本日ハ晴天ナリ。
花粉ガ飛ビ、黄砂ガ舞イ、空ハ埃ダラケ。
トテモ素晴ラシイ天気デス』
早々に準備を終えた僕の背後では、さっきからずっとテレビの天気予報が今日一日の天気を教えてくれていた。
けれど、いつものお天気お姉さんはそこにはいない。代わりの天気予報士は、籠に捕らわれた九官鳥だ。
今日は誰一人とこの九官鳥みたく籠の中に引きこもってはいないのだ。
『本日ハ晴天ナリ。世界ニ“ガリレオ”の幽霊ガ取憑キマシタ。
外ノ空ハ素晴ラシク埃ダラケデス。
太陽ノ光ハ、アチコチニ散ラバルデショウ』
晴れの空が埃っぽい日には、ガリレオの幽霊が世界に取憑く。
そして、彼の発明が未だ息づくオペラグラスでしか見えない世界が、レンズの向こう側に姿を現わすのです。
さあ、皆さん。
オペラグラスを持って外へ出かけましょう。
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