ガリレオの幽霊に取憑かれて

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  「オペラグラスじゃないの?」 「これだって立派なガリレオ式さ」  僕が尋ねると、老人は言いたいことはわかっているさと先回りして答えて、持ったガラスコップと虫眼鏡をまっすぐに空に向けて構えた。  浅く凹んだガラスコップの厚い底を目にあてて、ふちの部分を空に向ける。そして、その前に虫眼鏡のレンズを重ねてピントを合わせるのだ。  けれど僕は、空をのぞきこもうとする老人の行動に、慌てて止めに入る。 「空をむやみにのぞいたら危ないよ。太陽で目を痛めるから」 「大丈夫さ。いま、私に眩しい太陽など見えてはいないからね」 「なら、何が見えるの?」 「夜空だよ」  老人は、手製のオペラグラスを夢中にのぞきこんだまま僕のほうなど見向きもせずに、見えた未来を教えてくれた。  老人がいま見ているのは青い晴天の空だ。それが近い未来に夜空に変わるなんて、なんて普遍的で当たり前のことなのだろう。  そんなものを見て何が楽しいのか。疑問に思う僕を老人はまた先回りして言った。 「私が見ているのは空の未来じゃない。私の未来さ。どうやら私は、今夜また空を見上げるらしい」 「わかるの?」 「わかるさ」  自分の未来だからね。  と老人はコップの底をのぞきこんでニヤリと口元をほころばせる。
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