ガリレオの幽霊に取憑かれて

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  「私は今夜、再び空を眺める。だけど不思議だ、私はまるで宇宙の中にいるようだ。この地上から星を眺めているにしては、あまりに星が近い。近すぎる。そうだ、まるで夜空を飛んでいるようだ。私は今夜、空を飛ぶのかもしれない」 「夜空を……?」  その話を聞いた僕は、途端に、老人の姿が青空の中へと消え入りそうなくらい小さく見えた。  よく見れば、僕とぶつかった老人の体は針のように細かった。僕とぶつかったことを許してくれたあの笑顔がつやつやとして、明るいものだったから気づかなかった。  そして老人は僕のほうに見向きもしないどころか、僕の存在など忘れてしまったかのように、黙ってガラスコップの底から空を眺め続ける。  それでも僕は、老人に気づかれないように、近い未来を見続ける彼の邪魔をしないよう、そっとその場から離れた。  二、三歩だけ音を立てないよう後ろ向きに下がって、くるりと回れ右をし、それから走り出す。  駆けた町のあちこちでは、多くの人たちがオペラグラスをのぞきこんでいる。  道端にしゃがみこみ、マンホールの蓋を開けて中をのぞき見ている子ども。  自分が建てた真新しい家を眺めている男の人。  毎日手入れを欠かさない庭の花壇を眺めている女の人。  僕はその景色をすべてオペラグラスからのぞきこみながら駆けた。  けれど、どれもこれも景色はみな現在ばかりで、オペラグラスは僕に近い未来を見せてくれなかった。  
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