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「見えないんだ……」
「……? そんなによく見えていそうなのに?」
「いや、そうじゃなくて。見えないんだ……僕の、未来」
僕の口から出た声は、のぞいたオペラグラスのレンズの向こう側へ吸いこまれてしまいそうなくらい小さかった。
思った以上に、僕は不安だったのかもしれない。
晴れの空が埃っぽい日。ガリレオの幽霊が世界に取憑く。
その彼の興味が、ガリレオ式のオペラグラスを小さなタイムマシンに変えてしまう。
世界中の人たちは、その発明に夢中になっているのに、僕はまだ未来を見ていない。
「僕は、未来が見えないのかな……。僕には、もう、見える未来もないのかな」
ついさっき出会った、ガラスコップのオペラグラスで空をのぞきこむ老人の姿が頭に浮かべば、だんだんと口が重たくなってくる。
不安に視界まで暗くなっていくようだった。
オペラグラスのレンズが何かに塞がれた。
そうだとわかった次の瞬間には、急に視界が明るく開けていた。
カーテンを引いた部屋にとじこもっていたら、急に窓が開け放たれた時みたいに、眩しい光が僕の目をさした。
そして、いつも見ている等身大の彼女が僕に唇を重ねたのは、目を瞑る間もない一瞬のことだった。
僕の手を取り、オペラグラスを遠くに離して、彼女は僕にキスをする。
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