ガリレオの幽霊に取憑かれて

8/9
前へ
/22ページ
次へ
   蝶が花の蜜を吸い終えたように、彼女が僕から離れたのもあっという間だった。 「……。……あの、えっと。何を」  僕は口の中に残された砂糖菓子の甘さに動揺したまま、オペラグラスで顔を半分隠す。 「人工呼吸です」  彼女はニッコリ笑って答えたまでだった。  最近邪魔だと言っていた、肩まで伸びた黒い髪は埃っぽい風にさらわれて、幼い笑みがさらされる。  気がつけばここは公園で、シロツメクサの小さな野原に、僕と彼女は二人きりで立っていた。  満足げに笑う等身大の彼女が、そこにいた。 「よかったですね。これであなたの明日は保証されました。あなたは明日を生きられます。んふふっ」 「……どこでそんなこと覚えてくるの」 「絵本でお姫様がそうされてたよ。どう? オペラグラスは。これで何か見えた?」  呆れて訊くも、ずいっと顔を寄せてくる彼女に圧倒されながら、僕はうん……と考える。 「近すぎて、何も見えなかった……」 「それでいいんだよ」  彼女は僕からオペラグラスを取り上げて、レンズをのぞきこみながら、うんと頷いたのだった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加