第1章

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私が初めてあの人に出会ったのは、高田馬場にある居酒屋で友達と飲んでいるときのことだった。 就職先が決まったささやかなお祝いを二人で上げていた。 私は総合商社の一般職で、友人は中堅化学メーカーの総合職。 男たちを蹴散らして総合職の内定を獲得した友人、根室のことを私は誇りに思った。 「川内は美人だから、すぐに旦那を見つけて仕事をやめそうだなあ」 根室は焼酎をあおりながら、陽気にそう言った。 彼女の発言は真実である。 稼ぎのいい男を捕まえてさっさと専業主婦に収まる。 そうした将来が私にはお似合いという自覚があった。 「逆にあなたは、おばさんになっても仕事を続けていそうね」私は冗談まじりに言う。 「ふふん、そうでなきゃ誰が総合職で就活するって話よ」 そんな感じで雑談に興じているところへ、あの人は現れたのだった。 「あれ、美作じゃん」 友人は店に入って来た二人組の男を指さして言った。 向こうも根室に気がつき、手を振って近づいてくる。 ちゃらついてそうなのと、根暗そうなののコンビ。 普通だったらあんまりつるまなさそうな組み合わせに見えて、何となく私は興味を持った。 「奇遇だね」と、ちゃらい方が根室に声をかける。 こちらが美作らしい。
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