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「袋あけて。」
ソイツはドラ焼きに触れようとしたが、少したって最初の形に戻り俺に催促してくる。なんというか手間のかかる子どものようで拍子抜けで怖さもどっかいった。このまま何もしないで何かされたら嫌だから袋をあけてやり、とりあえず皿に用意してやる。
「ほれこれでいいか。」
「ありがとう。」
奴の前にドラ焼きを置いてやるとドラ焼きから白い靄のようなものが漂い始め、それがそいつの口があるであろう部分に吸い込まれていく。
観察していると靄が出てこなくなる。食べ切ったようだ。もの欲しそうに手を口に持っていき眺めてくるため、カステラも用意してやる。
よく分からないやつが干渉したものは食いたくないがもったいないので食べる。甘いし食感もあるし普通のドラ焼きだが決定的な何かが足りない気がして美味しくない。
「ごちそうさま。」
そう一言言うと輪郭が崩れ、水が流れ込むように俺の布団に移動し横になるような形に変形する。
「おい、勝手に。あぁ、もういいや。」
呆れた俺は仕舞ってあった毛布を取り出し床で寝る。考えるのも今はよそう。明日、起きれば何とかなる。
そう思っていたら窓から入る日の光が眩しい。どうやらいつの間にか寝ていたらしい。アイツは部屋の日陰のところに小さく座っていた。光も輪郭もとても薄くなっていることから強い光のある場所では見えないのかも知れない。
そしてコイツは起きるのを待っていたかのように手を振り挨拶してくる。声もよく聞こえないがなんといったのか分かる。
「あー、おはよう。」
なんだか恐怖を感じないことに恐怖を感じる。コイツは一体なんなのだろう。考えていたら腹が鳴る。とりあえず朝飯にしよう。
冷蔵庫にあるもので簡単なサンドウィッチを2人分作り、机に置き、遮光カーテンを閉める。するとコイツは昨日最初にいた場所と同じ場所に移動する。俺が向かい側に座ると手を合わせる。
「いただきます。」
昨日のドラ焼きのように朝飯を食べ始めた。俺はソイツを観察しながら食べる。どこからやってきて何のために居座っているのか。もしや昨日の占いのときどこかで気に入られてしまったのか。
「ごちそうさま。」
食べ終わるとまた部屋の隅に行ってしまった。片付け出来ない体だとしてもなんの躊躇も無く移動するのは少し腹がたつ。
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