二度目のプロポーズ

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独りで暮らすには、広い家だ。 掃除されていなかった空き部屋には、埃が降り積もっていて、掃除機でそれらを吸い取りながら探していく作業はなかなかに困難を極めた。 その上棚の中には無駄なものばかりで、湯のみも使えるものも何もない。 一通り探し、もう諦めようと思った時に、見覚えのない包装紙にくるまれた箱を見つけた。 包装紙をビリビリと破いていくと、それは長崎ビードロと書かれた箱である。 開けてみるとそこにはグラスが入っていた。 おおかたあいつが結婚記念日のために買ったものだろう。 思い出したくもない記憶にふたをするように、元の箱に戻そうとしてもう一つのグラスに気がついた。 ペアグラスだったのか。 夫婦茶碗だと普通すぎて面白くないから、ペアグラスにしてみたの。 あいつの思いつきそうなことだ。 そこまで考えて、微笑んでいる自分に気がついた。 夫婦そろって同じことを…と思うと面白い。 新潟へ一人旅に行ったのは、頭を冷やすためだった。 突然あいつが出て行ってしまってやはり困惑していたからだ。 その時、謝罪の意味も込めて夫婦茶碗を買おうとしたのだ。 しかし、素直になれない性分というのは、こういうところで発揮されてしまうものである。 日が経つにつれ、謝るに謝れなくなってきた。 だから結果的に、買ったのは、特別ひかれもしなかった、しかし値段だけは異常に高い、先刻割ったあの湯のみである。 あいつがおいていったペアグラスには、白いヒマワリの柄が凝った細工で描かれており、その繊細な力強さをあいつは好んだのだろう。
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