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フォークを突き刺すと、スポンジのふんわりとした柔らかさが伝わってきた。
期待に胸を踊らせ口に運ぶ。
「っ…、う、うまい!!」
ほのかに香るスポンジの甘み、しつこくない生クリーム、苺の酸味。
文句なし百点のショートケーキだ。
「手作りの物を食べたのは何日ぶりだろう……」
誰かの手で作られた物が、こんなにも美味しいなんて。
感動の涙がせり上がってくるのをぐっと堪えて、夢中でケーキを食べた。
「……はー。美味しかった」
それから数分後。
瞬く間になくなったショートケーキは、私の胃袋にすんなりと収まった。
満足満足、とお腹を叩いた所で、気付く。
「………全部食べましたね」
「あ」
『ちょっとだけ』の予定が、綺麗さっぱりなくなってしまった。
というか食べきってしまった。
「まあ良いですけど。それ、別に誰の為とかでもなかったんで」
そう言って嘆息する彼を見て、私はいいことを思い付いた。
彼ならば。この、お店レベルのケーキを作れる彼ならば、できるかもしれない。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
さっきまではホールケーキがあった皿を片付ける彼が、私の声に手を止めた。
洗い物……慣れているようだ。益々ほしい。
「なんですか。もうケーキは無いですよ」
「えっとね、」
「私の家を、片付けてほしいんだ」
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