1人が本棚に入れています
本棚に追加
松島先輩のクラス、科学の授業だったりしないかなという淡い期待を込めて、二階に上がる。
しかしそこには誰も居らず、がらんとした廊下が続いているだけだった。
運が良いときは特進科の人に会えるのだけど、難しいものだ。
「……戻るか」
百合を待たせているし、体育にも遅れてしまう。
落胆を隠さずもと来た道を戻ろうとした時、何やら良い匂いがした。
焼き菓子のような、甘い香りだ。
食欲を物凄い勢いで刺激してくる。
花の蜜に吸い寄せられる蝶々のように、私はふらふらと匂いの元を辿った。
「調理室?」
電気のついたその教室は、この時期使われていない筈だ。
普通科も特進科も、調理実習はまだ先の話だ(成績に直結するので、時期は覚えていた)。
なのに何故、昼休みに甘い匂いが?
もしかしたら先生が何かしているのかも知れないと思い、耳をドアに当てる。
中から足音。声は聞こえないから、一人なんだろう。
気づかれないように、そっと扉を開けた。
中に居る人物は、私に背を向けている。気づかれてはいない。
男子生徒のようだ。制服の上からエプロンを付けて、何か作っている。ドアを開けると一層匂いが強くなったが、彼はどうやらケーキを作っているみたいだ。
最初のコメントを投稿しよう!