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後ろ姿から伝わってくるのは、楽しそうな空気。
きっとこの人はケーキ作りが好きなんだろうな、と勝手に思った。
今時男子でさえお菓子を作れるというのに、私ときたらなんなんだろうか。
見知らぬ人に対して若干嫉妬しながら、素敵な匂いを肺の奥まで吸い込む。
さて、どうしたものか。
男子生徒は気付く気配がないし、私から声をかけるのも躊躇われる。
かと言ってこのまま調理室を立ち去るには、名残惜しいものがあった。
思いきって話しかけてみたら、ケーキをくれるかも知れない。
そう思い口を開いた時、喉とは違う場所から音が鳴った。
『ぐーきゅるるるる…』
中々の音量をたてて自己主張する私のお腹。
反射的に振り返る目の前の男子生徒。
真っ赤になる私の顔。
ぶつかり合う視線。
――――微動だにできなくなる。
真正面から見た彼は、想像していたよりも綺麗な顔立ちをしていた。
少しの風にまで煽られるサラサラの髪、吸い込まれそうな黒い瞳、薄い唇は驚いたように離れている。
中性的な美しさのある整った美少年。
私の中で彼の第一印象が決定した。
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