あなたは私の好きな人

2/26
前へ
/58ページ
次へ
「青い空に、白い雲。そして穏やかな小鳥達のさえずり。とても気持ちのいい朝だ。早起きは三文の徳と言うけど、こんな朝を迎えられるなら早起きというのも悪くないな。」 「……待ち合わせ時間に二時間以上遅れた奴の台詞だとは、到底思えないわね。」  冷ややかな言葉に、三条誠(さんじょうまこと)はめげる様子もなく、爽やかに笑った。 「遅れるって連絡はちゃんとした。責められる謂れはない!」 「連絡してきたのは待ち合わせ時間の一時間後。その連絡ですぐに行くと言っときながら、それからまた一時間たってやっと来たことを、忘れたとは言わせないわよ。」 「え、何のこと?」 「この……」  悪びれもせずにさらりと言われ、宮波柚菜(くなみゆな)は目を釣り上げる。  思いっきり怒鳴ってやりたかったが、どうせ不毛なことだと、深い深いため息をついた。  短い髪を振り、十六歳にしては小柄な体で、柚菜は目の前にいる誠の涼しげな顔を見上げた。  唇をとがらせると、大人びた顔つきが若干幼く見える。 「遅れた理由は?」 「いつも通り。」 「……寝坊ね。」 「それと、柚菜に連絡したあとでバスに乗ろうと思ったら、一時間に一本しかないバスが出た直後だった。」 「ほんっとうに運が悪いわね!」 「いやほんと、俺もびっくり。」 「もう!」  あまりに軽い言葉に、柚菜はつり目をさらにつり上げ、誠を睨み付けた。 「しっかりしてよ! 仕事なんでしょ!!」
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加