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時を、一日遡る。
「帰らずの山?」
柚菜の怪訝な声に、座布団の上で胡座をかく誠は頷いた。
「そ。正式名称は九蛇山(くだやま)だけどな。覚えてないか? 昔よく遊びに行っただろ。」
「そりゃ勿論覚えてるけど……。あの山、普通の山でしょ? なのに何でそんな名前で呼ばれるようになってるの?」
記憶を手繰り、不審に思って尋ねると、誠は着物の袂から、一枚の紙を取り出した。
「これ、読んでみな。」
「何なの?」
「依頼主からの詳細報告書。」
「ああ……。」
柚菜は差し出された紙を受け取った。
――ここは、町外れにある、小さな神社。
その中の和室に、柚菜は、この神社に住んでいる誠と向かい合って座っていた。
爽やかな風が吹く初夏の昼。
渡された紙に目を通していた柚菜は、そっと誠を盗み見た。
――三条誠、十九歳。
顔つきは爽やかで、涼しげな目元と少し薄い双眸は、柔らかな印象を与える。
日頃からのんびりとした表情を浮かべる彼は、いかにも人当たりが良さそうだが、実際は面倒くさがりなのを柚菜は知っている。
神社に住んでいる彼はいつも和服を身に纏い、今も、落ち着いた青系統の色合いの着流し姿だ。
思わず、柚菜は見とれてしまう。
(こういう色の着物……やっぱり誠に似合うなぁ……。)
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