あなたは私の好きな人

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***  時を、一日遡る。 「帰らずの山?」  柚菜の怪訝な声に、座布団の上で胡座をかく誠は頷いた。 「そ。正式名称は九蛇山(くだやま)だけどな。覚えてないか? 昔よく遊びに行っただろ。」 「そりゃ勿論覚えてるけど……。あの山、普通の山でしょ? なのに何でそんな名前で呼ばれるようになってるの?」  記憶を手繰り、不審に思って尋ねると、誠は着物の袂から、一枚の紙を取り出した。 「これ、読んでみな。」 「何なの?」 「依頼主からの詳細報告書。」 「ああ……。」  柚菜は差し出された紙を受け取った。  ――ここは、町外れにある、小さな神社。  その中の和室に、柚菜は、この神社に住んでいる誠と向かい合って座っていた。  爽やかな風が吹く初夏の昼。  渡された紙に目を通していた柚菜は、そっと誠を盗み見た。  ――三条誠、十九歳。  顔つきは爽やかで、涼しげな目元と少し薄い双眸は、柔らかな印象を与える。  日頃からのんびりとした表情を浮かべる彼は、いかにも人当たりが良さそうだが、実際は面倒くさがりなのを柚菜は知っている。  神社に住んでいる彼はいつも和服を身に纏い、今も、落ち着いた青系統の色合いの着流し姿だ。  思わず、柚菜は見とれてしまう。 (こういう色の着物……やっぱり誠に似合うなぁ……。)
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