3人が本棚に入れています
本棚に追加
***
幼い頃からずっと一緒にいた彼。
一緒にいるのが当然で、彼のことを知るたびに心が浮き立ち、いつの間にか大好きになっていた。
いい所も悪い所も、全部好き。
だが、時々、この男はこのままで本当に大丈夫なのかと、本気で思ってしまうこともある。
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……。」
「大丈夫?」
「くそぅ、山登りなめてたぜ……。」
山を登り始めてわずか数分。
誠は既に荒い息をしていた。
「ぜぇぜぇ……まさか、ここまでとはな……。」
「まだそんなたいした距離登ってないわよ。」
「つぅ……。自分の体力値の低さに泣けてくるぜ……。」
誠はかなり体力がない。
それは生来のもので、退魔師の修業をしていてやっと今の状態らしい。
「ないものねだっても仕方ないでしょ。しかも、ちゃんと準備して来ないのも悪いわ。服装ぐらいは山登りに適したものにしなさいよ。」
呆れる柚菜は長いズボンに薄手のシャツ。
背中に背負ったリュックには色々入っている。
それに引き換え、和服の誠。
おまけに、履いているのは下駄だ。
手荷物などないし、山を登るのにふさわしいとは思えない。
「いいんだよ、これは俺のトレードマークなんだ。簡単には変えられないな。」
「それでばてばてになっちゃ、世話ないわよ。……はい。」
柚菜はすっと手を差し出した。
内心は少し緊張しているが、それを表には出さない。
誠は小さく唸ると、その手を取った。
「ここは普通逆だろー……。男が女に手を引かれるって……。」
「文句言わないの。体力無い誠が悪い。」
最初のコメントを投稿しよう!