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音と声
後ろから、クスクスと数人の笑い声が聞こえる。それと共に呟かれる小さな声を、私は耳聡く聞き取ってしまう。
それは、聞いて得どころか損をするような代物だというのに。
「(あぁ…自意識過剰だな)」
心の中で、愚痴る。声に出したらそれこそ自意識過剰なのだから。いや、思っている時点で、どちらも変わりないか。
教室止め処なく流れる会話を耳に、私は窓を全開にして机に突っ伏した。甲高い声で寒いと訴える誰かの声がしたけれど、構うものか。寒かったら自分で閉めに来い、また私が開けるから。
突っ伏したまま、寝たふりを決め込むことにする。全開した窓の外から、聞き取りようのない雑音が聞こえた。
うるささは相当だろう、けど窓は開け放ったまま。
「(うん。いい感じの雑音)」
私は人の声より、物音の方が好きだからだ。歌手を好まず楽器を好む人間。まあそんな人間はごまんといるだろうけど。
物音は良い。聞こえないことはまずほとんどないし、何よりも小さな音を掻き消してくれるから。
「(それに比べて…)」
人の声は嫌いだった。小さな笑い声、大きな怒鳴り声。その声々は、周りが言う雑音に値すると思う。
でも、ポリシーとして、声は嫌いではなかった。
「音に罪は…ない」
ボソッと呟いた私の声は、誰にも気付かれずに宙へ霧散した。
窓はまだ、全開のままだ。
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