第1章

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「私以外」の人間、つまり彼女は全人類を嫌うと言ってのけたのだ。何を馬鹿な、しかし彼女の口調と表情は、まんざら冗談でもなく、むしろこの上なく真剣であった。  分からない、理解できなかった。それから私は機会がある度に、自分の顔を鏡で確認し、そこにある凹凸を指でなぞるようになった。何度も、何回も、なぞった。  しかしいくらやっても(具体的には13140回である)、そこに有るのであろう抽象的なイメージを受け取ることは出来なかった。だから私は、世間から何かが損なわれている私を知った。  その世間を教えてくれたのは、自分の顔にある凹凸ではなく、世間そのものだった。世間の評価。  印象であり、陰口であり、賞賛であり、マスメディアだ。  
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